アスナロサンシャイン





「おや、もう食べないんですか?」
いつもなら1人で丸ごと平らげてしまう西瓜を、ほんの2、3切れで止めてしまった悟空を見咎めて、八戒が訊ねた。
「・・・ん。」
足下に散らばった黒い種をぐずぐずと爪先でかき集めながら、少年が浮かない顔で言葉を濁す。
「三蔵に・・・殴られた。」
「それが?別にいつもの事じゃないですか。」
「そりゃま、そーなんだけどさっ。」
何か言いたげに自分を見上げる金晴の視線を、反射的に元教師の微笑みで受け止めながら、八戒は軽く頷いて続きを促す。

よほど後悔しているのか、悟空はぽそりと小さな声で打ち明けた。
「ちょっと、言ってみたかっただけなんだ。」
「なんて?」
「三蔵も髪、伸ばしてみない?って。悟浄くらいに。」
「・・・はぁ。」
「本気じゃなかったんだ。お日様の光がキラキラ反射して、きっとすっごく綺麗だろうなって思っただけで。」
「それで、殴られたんですね?」
「うん。貴様、俺が僧侶なのは知っているな?って。」

さもありなん、と八戒は思った。
最高僧が髪を生やしているというだけでも、文字通りカタイ坊主頭の老僧連中には煙たがられているのに。
まして“あの”悟浄みたいに、だなんて・・・あからさまな不快を露わにする三蔵の表情が見てとれるようだ。

「だけど・・・どうしてまた急に、そんなことを思いついたんです?」
「・・・羨ましかったんだ。」
「三蔵の髪が、ですか?」
「違う。八戒と悟浄だよ。」
「??? それはまたどうして?」
「ほら、こないだみんなで夏祭りに行った時。八戒、悟浄の髪を束ねてやってただろ?あの時の2人・・・何だか、物凄〜く嬉しそうだったから。」

たまには息抜きも必要だろうと、三蔵と悟空を誘ってふもとの街まで出かけたことがあった。
和装にはやはりまとめ髪が似合うと、確かに八戒は柘植の櫛で、悟浄の長い髪を一つに結い上げてやったのだったが。
その様子が、そんなに仲睦まじく映ったのだろうか?2人の関係にはまだ、気付かれていない自信があったのだが・・・

八戒は一言ひとこと、慎重に言葉を選びながら答えを返してみた。
「僕はただ・・・着物に真っ赤な長髪じゃ、あんまり暑苦しそうに見えたもんで、つい。」
「・・・確かに、そうだよね。」
「性分なんでしょうねぇ。何かもう、気になりだしたら手を出さずにはいられなくって。自分が暑い訳でもないのにね。」
「・・・ふぅん。」
「それに、悟空にとって三蔵は・・・髪が長くなくても、太陽なんじゃないですか?」
「・・・も、いい。」
悟空が思い出したように、猛然と残りの西瓜にかぶりつき始める。

八戒は、オトナだもんな。
そうやっていっつも誤魔化して、本当に楽しい気分になれるコトは、何ひとつ教えちゃくれないんだ。

赤い果肉をすっかり平らげてしまうと、悟空はにわかに立ち上がった。
「俺、もう帰るよ。ご馳走様。」


「今度は、悟浄の居る時にいらっしゃい。」
「・・・ん。」

穏やかな中にもどこか安堵の色が感じられる声音に見送られながら、悟空はいつも仏頂面の三蔵が、どうしたら笑顔を見せてくれるものだろうかと思いを巡らせ始めた。

とにかく今は、戻らなくては。
顔の見える場所に居なければ、たとえあの紫暗の瞳が自分のために微笑んでくれたとしても、それに気付くことだって出来やしない。

三蔵の髪と同じ色の陽に向かって、悟空は全速力で走り出した。




明日ハ、桧ノ木ニナロウ。






〜close of this world〜


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from "A"('97) by DENKI GROOVE


コドモの勘は、オトナの予測以上に鋭い。


Mind Atlasのkyocoさんが当サイトで踏まれた申告制キリバン、
8989&9999のクーポン引換品として無理矢理押し付けたものです。
気付いたら頂戴した暑中見舞いを悟空視点で観ていたものですから。
悟空にはいつまでも、背伸びするアスナロであって欲しいです。

kyocoさん手ずからアスナロ壁紙を作って下さいましたので、
逆輸入(?)させて戴きました。まさに棚ボタ。

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