ゴジョ と サンゾ の 神隠し
其の一 サンゾとの出会い
「ここへ来てはいけない、すぐに戻れ!」 「・・・はあ?」 突然目の前に現れた白装束の少年の気迫に押されて、ゴジョは面喰らった。 森で1人遊びをするうちに道に迷い、異様な冷気を感じる川のほとりに迷い出てしまった矢先のことだった。 「夜になったらもう間に合わん、川の向こうに走れ!」 「ちょ、ちょっと待ってよ、なんなのあんた・・・」 走れったって、両手で肩を掴まれていては動くこともできないんですが?
額に金髪を張付かせ、額のチャクラを更に赤くして紫の瞳を血走らせる少年の肩ごしに、かつて高速沿いに存在していたラブホテルそっくりの、ギンギンに輝くフェリーが川を上ってくるのがみえた。 しかもさくさく船室のトビラが開き、ゴジョがいつも遊んでいるトランプにそっくりの顔をした物体が、続々と上陸し始めている。 どう考えても、ここは普通の世界じゃない。
日がとっぷりと暮れ、朱塗りの橋を渡った所にそびえる、巨大な建物に灯りがともった。 「あーもー間に合わん!おい、これを喰え。」 少年がゴジョの顔の前に、ぬっと1本の胡瓜を差し出す。 反射的に振払おうとしたゴジョの手は、なんと少年の身体を突き抜けてしまった。
「なっ・・・?どうしたんだ、俺の手!」 「この世界のものを喰わねーと、貴様は消えてしまうんだ。いいか、全部入れろよ、残さず」 「あ、あの、入れるってどこに・・・」 スパコーン!少年の隠し持っていた張りセンが、ゴジョの頭にメガヒットした。 「喰うったら口だろうが、湧いてんのかてめェ!」
なんで張りセンは突き抜けないんだ・・・ ゴジョが泣きそうになりながら胡瓜を丸呑みし終えると、少年はいきなり彼の手を握った。 今度は触れる。どうやらもう、消える心配はないらしい。
「よし。だが、まだ安心はできん。ここでは仕事を持たない者は、ゴノーバに河童に変えられてしまうのだからな。」 だからあ、ゴノーバって何よ?
しかしあくまで自分勝手に話を進める少年に、ゴジョはもう質問する気力さえ残っていなかった。 「さあ、一緒に頼みに行こう。私はサンゾ、お前の見方だ。」 何だかまだよく分らんが、こいつについて行く以外に道はなさそうだ。 しかも命令口調とは裏腹に、通過してゆく異形の者たちから自分をかばうように抱きすくめながら、紅い髪を優しく愛撫してくれる少年の手の温かな感触に、単純なゴジョはすっかり心を奪われていたのだった。
ひとしきり化け物たちの行列が過ぎたところで、ゴジョは少年に誘われるまま、彼らの後から『ドリームワールド斜陽殿』と看板のかかった悪趣味な建物に入っていった。
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