+Is There Something I Should Know?+
.....知らない方がいいってコトも、あるんだぜ?お坊サマ.....
昼間の饗宴に疲れ果てた大邸宅の中で、その部屋だけには甘い熱を伴う活気が溢れていた。花嫁の珊瑚色に輝く艶髪が、初夜のしとねに流れている。今は同じ色の瞳を閉じている、穏やかなその横顔を月が照らす。「もう眠ったのか?悟浄」漸く聞き取れる低い声で、新郎は上気した妻の耳元に囁きかける。「いや。まだ物足りなくって、そんな気にはなれねえよ」わざと乱暴に言い放つのも、照れ隠しに過ぎないのは分かっている。そんな物言いが愛しくて、三蔵は悟浄の耳たぶをそっと噛んだ。うっ.....息を詰めた悟浄の口から、小さな吐息が漏れる。三蔵は思わず、抱きしめる腕に力を込めた。「おい.....灯りを点けてもいいか?お前の身体を見たい」悟浄の長い髪を指で梳きながら、三蔵が持ちかける。「ちょっ、待ってくれよ。俺苦手なんだ、寝てる時に眩しいの」ふ、こいつ、恥ずかしがっていやがる。「夫が妻の裸を見て何が悪い?」「まあまあ、どうせずうっと一緒に暮らすんだ。そんなに焦りなさんなって」へえ、本当に駄目なんだ。結構うぶな所があるじゃないか。「分かった、無理は言わない。段々に慣れていけばいい」いつもは容赦ない三蔵も、今日ばかりは優しい。「結婚式は疲れたか?」 黄金色の絹糸の間から覗く眼差しが、少し細くなっている。「ああ.....少しだけな。披露宴は大騒ぎだったけど」話題が逸れてほっとしたのか、悟浄は思わず煙草に手を伸ばす。「お互い、個性的な親戚には事欠かんな。酔っぱらって踊り出すおっちゃんは居るし.....」「ああ、あれは兄貴。お前の弟なんか、冬山で迷った子猿みたいに喰い続けてたぜ」いったんくわえて火を点けた煙草を、悟浄が三蔵の口に含ませ、2人一緒に笑う。「なあ、うちの親父.....殆ど泣きそうになってたろ、必死でこらえてたけど」「優しそうなお父さんだな。さぞかし可愛がってたんだろう?お前のこと」片眼鏡の奥に暖かい笑みを浮かべた、品のいい紳士の姿を思い描いてみる。穏やかな緑の瞳が涙のせいで輝きを増していたのを、三蔵も見逃してはいなかった。「そうなんだ。親父は男手ひとつで、懸命に俺を育ててくれた.....」悟浄は枕元のスタンドを点けると、毛布をしっかり纏ったまま、傍らの懐剣を手に取った。「この懐剣.....死んだお袋の形見なんだ」なんだ、それを見せるために点けたのか。「古風な女性だったんだろうな。そんなもの抱えて嫁いでくるなんて」「憶えちゃいねえよ。でも俺に瓜ふたつだったそうだ。 お袋が死んだ後、親父は全ての愛情を俺に注いでくれたんだ.....この懐剣を使ってな」え?なんか俺、聞き間違えたか?「なあ三蔵.....訊いてもいいかな」悟浄は背を向けたまま、わざと何でもないという口調で続けた。そこに掛かる髪と同じ位に、うなじが紅く染まっている。「なんだ。早く言え」後ろから両腕をまわしたまま、三蔵もわざと煩そうに、それに応える。「つまりその、俺のこと.....どう思ってるのかってこと」「なんだそりゃ、愛の言葉が聞きたいってのか」ふふんと、鼻先で笑いながら。「決まってんだろ。俺達もいい夫婦になるんだよ、 その.....親父さんとお袋さんみたいにな」ちっ、柄にもないことを。三蔵も顔から火が出そうだった。「本当か?!だったら、この懐剣はお前のものだ」にわかに振り向きざま、悟浄は懐剣を三蔵の手に握らせようとした。「さあ、早く俺に印をつけてくれ。これで俺達、ようやく本当の夫婦になるんだよ」え、え?何なんだこいつ、何言ってんだ?戸惑う三蔵にはお構いなく、悟浄は頬を上気させてたたみ掛ける。「親父も俺のことは、本当によく愛してくれたよ。 だけど今日からは、お前が俺の御主人なんだ。 さあ、早くこの懐剣で、俺の身体に傷を付けてくれ。 お前のものだって印を、俺の身体に刻み込んでくれ!」いたたまれなくなった三蔵は、咄嗟に悟浄の身体から毛布を引き剥がした。「あっ!!」 突然あられもない姿になって、悟浄は恥ずかしそうに身をよじっている。「止めてくれよ、恥ずかしい.....見ないでくれと言ったのに」悟浄の全身には、無数の傷跡がくまなく刻み込まれていた。
close of this world::::::::::::::::::::::::::::
原案・高橋葉介「傷」
甘々の三浄とみせかけて、実は八浄。 しかもSM、近親相姦(--;)いいのか?最遊記単独の初書きがこんなんで。でもキャスティング、結構似合ってるでしょ。
ちなみにIs There.....は、 邦題「プリーズテルミーナウ」(爆)として紹介された、D●ran Dur○n往年のヒット曲です。